利島・宮塚山「山廻り」巡礼登山 – 利島旅行(2)

下船後、まずは山の中腹にある民宿へ

東京を金曜の夜22時に出航して、翌朝7時40分に利島に上陸した(東京から利島への船旅の記録はこちら)。利島で下船した乗客はざっと30人ほど。手荷物を見た限り、海釣り目的の人が目立った。

利島は直径約2.5kmの火山島。山ひとつ(宮塚山 標高508m)がそのまま島になっている。海面下を含めると直径は約5km、比高約600m。山の下半分が海の中にあるイメージだ。

火山島ではあるが記録に残る噴火はない。溶岩からの推定では、4000~8000年前に噴火があったと考えられている。

さるびあ丸のデッキから見た利島。島全体が山

下船して埠頭を歩くと、その先に黄色い2階建ての小さな建物が見えた。こちらが船の待合所。その前に送迎の自動車が10台ほど並んでいる。いずれも品川ナンバーの軽自動車。予約した民宿の車でまず宿に向かった。

利島には平坦な土地がほとんどない。島の北側だけ若干緩やかな斜面になっていて、集落はここ一つ。役場・商店・民宿・農協等が肩を寄せ合うように軒を並べている。

集落は標高40〜100メートルほどにあるため、埠頭から急な傾斜を上る必要がある。宿を予約した時は、地図は平面なので「わざわざ迎えに来てもらうのはどうか」と考えたが、それなりに距離もあるため、車が正解だった。

宿で荷解きをして、軍手・ポール・ヘッドライト等、登山に必要なものだけをリュックに詰める。8時半、早速登山開始。

反時計回りに利島の南側に向かう

利島には正月三が日、山腹の一番神様(阿豆佐和気命本宮)、二番神様(大山小山神社)、三番神様(下上神社)の順で神社に参拝する「山廻り」という習わしがある。米とお神酒を持って3つの神社にお供えをする。今回、この山廻りと宮塚山登頂を組み合わせたコースを歩いた。

スタート地点は集落の北端にあり、宿泊した民宿にも近い堂山神社。この側にある石畳の坂道を上がり、まずは島の中腹をベルトのようにつなぐ利島一周道路に出た。

堂山神社から利島一周道路へは石階段の道を上る

利島はツバキの島。島の80%がヤブツバキに覆われている。残念がらツバキの花のシーズンはピークを過ぎていたもの、道の両脇は赤い花が開花し、落下した花が道を彩っていた。ピークはツバキの花で絨毯のようになるという。普段は、杉林が続く奥武蔵・奥秩父を歩いているだけに、新鮮だった。

石階段に落下したツバキの花

整備された舗装路・利島一周道路に出ると、この道を反時計回りに南ヶ山園地を目指す。天候はおだやか。右手には青い海をへだてて伊豆半島の南端、振り返ると伊豆大島が見える。

時折、ツバキ農家と思われる軽トラックが通り過ぎた。収穫用の小さなモノレールのレールが斜面に敷設されているのが面白い。子供連れならきっと「あれに乗りたい」というに違いない。

利島一周道路。遠くに伊豆半島を眺めながら歩く

途中で利島一周道路と分岐し、さらに南に進むと一番神様「阿豆佐和気命本宮(あずさわけのみことほんぐう)」に着いた。石造りの鳥居の向こうに丸石の山道があり、坂道の上に祠がある。八丈島でも同じく、参道の階段は丸石で作られていた。伊豆諸島の神社共通のスタイルだろう。

右/阿豆佐和気命本宮 左/大山小山神社

参拝の後、しばらく進むと公園のような広場に出た。南ヶ山園地だ。利島の南に位置し、港や集落のちょうど逆側になる。高台にあるため、鵜渡根島・新島・式根島が見渡せる。新東京百景の一つ。ここで10分間休憩。

南ヶ山園地。鵜渡根島・新島・式根島を眺望

南ヶ山園地のすぐ北に二番神様「大山小山神社」がある。だが、この神社への道筋がわかりにくかった。ようやく見つけた細い山道も笹が繁茂しつつあり、木段の状態もよくなかった。笹を左右に分けつつ、5分ほどで大山小山神社に到着。

鳥居・祠ともに一番神様「阿豆佐和気命本宮」とサイズは変わらないが、鳥居から祠までの距離はずいぶんと短かった。参道の丸石がいくつか剥がれていて、転ばないように注意した。

参道の丸石はところどころ剥がれていた

スダジイとオオモミジ、見事な指定保存樹木

二番神様の参拝を終えた後、利島一周道路に戻る。5分ほど歩くと宮塚山の南登山口に到着。ここまではハイキング、ここからが登山。ポール(登山用の杖)をリュクから取り出して伸ばした。

山頂までひたすらヤブツバキの林の中を登るのだが、途中、2本の指定保存樹木(東京都利島村指定文化財)に出合う。1本はスダジイの大木。巨人が倒れ込むような姿だった。利島でスダジイの材木は、かつて船の骨組み、臼、鎌の柄、牛の鞍、神社の土台、家の柱等に利用されたという。

指定保存樹木・スダジイの大木

もう1本はオオモミジ。4月から5月にかけ、紅色の花を開くという。この2本の大木は異彩を放っていた。

指定保存樹木のオオモミジ

赤いツバキの花が落いて山道をきれいに彩っている場所もいくつかあり、同じ伊豆諸島の山ながら、伊豆大島や八丈島の島登山とはまったく違った風情だった。

赤いツバキの花で彩られた山道

宮塚山の展望台から集落を見下ろす

南登山口から30分ほどで宮塚山の山頂に到着。標高507.6m。山頂は広場になっており、ベンチもある。お弁当を広げるのに最適な場所。ただ、周囲はヤブツバキ等の雑木林になっていて眺望は今ひとつ。

宮塚山の山頂。一等三角点あり

ここから少し下りたところに展望台がある。利島の北側、利島港と集落が見下ろせる。伊豆半島と伊豆大島もくっきりと見えた。

宮塚山展望台からの眺望。真下に港と集落。右奥は伊豆大島。左奥は伊豆半島

宮塚山の頂上付近には「カジアナ」と呼ばれる古い火口がある。宮塚山のほとんどがヤブツバキに覆われているが、カジアナ付近はスダジイ・タブ等の原生林となっている。この一帯のみ何やら幽玄な趣だ。

カジアナの原生林

三番神様「下上神社」を経て集落へ下山

30分ほど展望台で休憩した後、東登山口を目指して下山開始。なかなかの急傾斜。南登山口からよりも東登山口から登る方が体力を消耗しそう。

途中、もう一つの古い噴火口「御穴(ミアナ)」に近寄ってみたが、灌木に覆われていて危険な雰囲気。穴に落ちたら大変だ。単独行なので深追いは禁物。早々に引き返した。

展望台から20分ほどで東登山口に下りた。ここからは再び舗装路・利島一周道路を歩く。東登山口から少し下りた場所にウスイゴウ園地という小さな公園がある。素敵な東屋があり、ここからは島の東側を眺望できる。緑のツバキ畑と向こうに青い海と青い空が広がる。

左/ウスイゴウ園地の素敵な東屋 右/下上神社

ウスイゴウ園地から10分ほど下り、利島一周道路から少し逸れると、山廻りの三番神様・下上神社があった。三つの神社の中では鳥居から祠までの距離が一番長かった。登山の無事のお礼を述べて礼拝。

ここからは、ひたすら緩やかな下りが続く舗装路を粛々と歩くのみ。

登山開始から3時間45分。12時50分にスタート地点に戻った。歩行距離8.3kmの登山だった。

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