松任谷由実、最新作に見る「勝ちの方程式」
ここ数年、とかくコンピレーションやカバーアルバムが多いイメージのユーミン(松任谷由実)。評論家の評価は今ひとつのようですが、私のような20年来のファンはさほど気にしてはいません。
2002年の逗子マリーナで行われた「SURF&SNOW in Zushi Marina」や「acacia tour 2001」に出かけましたが、荒井由実時代の曲をぞんぶんに歌ってくれるのは、長年のファンにとって、むしろうれしいものです。
1990年代半ば、絶頂期のユーミンのコンサートは、プラチナチケットを手に入れるのに人一倍苦労したものの、派手な演出とアレンジばかりのナンバーが目立ち、どこか消化不良を感じていましたから。
1980年代の記憶をくすぐる最新作
さて、ユーミンの最新作『Yuming Compositions:FACES』を早速購入しました。1980年代のカバー曲と荒井由実時代のヒット曲を集めたアルバムで、「雨音はショパンの調べ」(小林麻美)、「瞳はダイアモンド 」(松田聖子)、「『いちご白書』をもう一度」(バンバン)、「Wの悲劇よりWoman」(薬師丸ひろ子)、「やさしさに包まれたなら」、「ベルベット・イースター」等を収録。
1979年に中学校に入学し、80年代に思春期、青年期を過ごした私にとっては、これらの曲、一つひとつに当時の思い出がシンクロします。30代の青春の記憶をくすぐるラインナップです。
少し意地悪な言い方をすれば、このアルバムは、アーティストの発想よりもマーケッターの発想を感じました。アーティスト発信のメディアではなく、消費者(=松任谷由実を聴いて育った世代)のニーズを的確に捉えた「1980年代記憶再生装置」というプロダクトです。ある意味、ガンダムのプラモデルと近いポジションなのでは。ここ数年のユーミンのコンピレーションやカバーアルバムは、ユーミンのファン(=消費者)に対するサービス精神の表れだと思います。
「大人の商売」を感じさせる
「まちぶせ」が収録されたアルバム『カゥガール・ドリーミン』の時期から、上記の傾向が顕著に見え始め、この点を音楽評論家は一種のアーティストとしての怠慢と指弾するのですが、私は編集者としてユーミンの立場を擁護したいと思います。
アルバムにしろ小説にしろ、商品である以上、儲からなければお話になりません。書籍の編集者なら1年で新刊を4〜5冊は企画・発行します。その際、一年間の出版計画の中に、1〜2冊は意欲的な作品を入れても、2〜3冊は採算の予測が立つ書籍を交ぜるでしょう。情報誌の編集においても、年間の特集企画の中に食べ放題、ラーメン、花見、紅葉といった、ある程度の部数が見込めるテーマを入れるのは必須でした。プロの編集者は「売れる方程式」「勝ちの方程式」を持っているというのが私の持論です。
「初回限定版」「1980年代のカバー曲」「荒井由実時代にヒットしたナンバーのリメイク」が、新作『Yuming Compositions:FACES』のポイントです。この3つのポイントこそ、ユーミン流「勝ち方程式」だと思いました。
一昨年の逗子マリーナのライブは、30〜40代の同窓会のような雰囲気で、みんなリラックスして楽しんでいました。「大人の商売」を感じる、近ごろのユーミンです。
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