圧巻!『戸谷成雄 彫刻』展(埼玉県立近代美術館)の感想
2度目の戸谷成雄の個展へ
埼玉県立近代美術館で開催中の『戸谷成雄 彫刻』展に出かけた。
戸谷成雄氏の個展は2度目。前回は2021年冬、市原湖畔美術館で開催された『戸谷成雄 森―湖:再生と記憶』を見た。千葉県市原市全域でアートフェス『いちはらアート×ミックス』が開かれており、その日は一日かけて多くのインスタレーションを見たが、戸谷成雄氏の彫刻作品(特に『森』シリーズに連なる作品群)は、他の追随を許さぬ圧倒的な存在感があった。
『戸谷成雄 森―湖:再生と記憶』は、美術館とそばにあるダム湖・高滝湖を「場」として、<森><土地><水脈>をテーマに作品を構成した意欲的な展覧会だった。一方、今回の『戸谷成雄 彫刻』展(埼玉県立近代美術館)は、学生時代から現在までのポートフォリオをたどるオーソドックスな展覧会だ。
「森」シリーズにいたる長い模索が興味深い
展覧会は3つのスペースで構成されていた。
- 大学在学中から初個展「POMPEII‥79」まで
- 代表作「森」シリーズに至るまでの模索
- 「ミニマルバロック」、最新シリーズ「視線体」まで
戸谷氏の「森」シリーズ以降の作品は、美術館・美術専門誌上で何度も目にしてきたが、「森」以前の作品の知識は皆無だった。ミニマルな作品が特徴的であるだけに、これまで氏については「ポストもの派」という固定されたイメージを持っていた(私と同じような人はきっと多いはず)。
今回の展覧会では、大学在学中の作品から「森」シリーズにいたるまでの変遷を目にすることで、現在の作品への視線がより深くまで刺せるようになった気がする。
戸谷氏が愛知県立芸術大学に進学したのは1969年。当時は芸術系の大学であっても、学園紛争・ベトナム反戦運動の舞台として、騒然としつつも活気あふれる空気が満ちていたに違いない。あらゆる表現が「是」とされ、(大学生ゆえに)既存の絵画・彫刻という表現のあり方に対し、懐疑的な姿勢こそが肯定的に捉えられた時代であったはず。
そのような状況の中、あくまで彫刻という形式の中で、社会に対する真摯な姿勢を追求した葛藤を、人体彫刻『器Ⅲ』に感じた。
また、吉本隆明の『共同幻想論』の「自己幻想」「対幻想」「共同幻想」に由来した『POMPEII‥79』も、1947年生まれという「世代」ならではの知的背景を感じた。
1983年、角材で作られた「『構成』から」を富山県の浜黒崎海岸で燃やすパフォーマンスの記録映像『閑さや岩にしみ入る蝉の声』も圧巻だった。現在の静的な作品からは想像できない光景だ。
大地とヒトのあるべき関係性を感じる『洞穴体』
2010年以降の作品では『洞穴体Ⅲ』がよかった。4枚からなるレリーフのような作品。
表側は秩父地方の地図上に山並みや水の流れを意識しつつ重ね書きしたドローイングをもとに、心象風景(?)を精緻に彫ったもの。裏側はレリーフを支えるような塊があり、こちらは耳を当てて音を聴く戸谷氏自身の身体をモチーフにしたもの。表と裏は暗い「洞穴」でつながっている。
大地(自然)と人のあるべき関係性を示したような印象を持った。
ちなみに戸谷氏は秩父にアトリエを持つ。埼玉県立近代美術館にとっては地元の作家だ(出身は長野県小川村)。私も秩父の山地へは毎月のように登山に出かけているので、この作品に強い思い入れを持った。
展覧会場の導線が新鮮だった
ところで、今回、美術館2階の企画展スペースに着いて、軽く驚いたのが会場導線だった。
この10年ほど、私は埼玉県立近代美術館の企画展は必ず出かけている。いつもは階段を上がってすぐ左に入口があり、展示室B → 展示室C → 展示室Dと時計回りに進む。ところが今回は展示室D → 展示室C → 展示室B と反時計回りに進み、2階エレベーター前の作品を見た後、地階に下りてセンターホールで最後の作品に至る。MOMAS(埼玉県立近代美術館の略)リピーターの私にはちょっと新鮮だった。
一通りの作品を鑑賞した後、出口で最もサイズが大きな「洞穴体Ⅴ」を見下ろし、地階で作品を質・量を間近で実感する流れはユニークだ。
ポストもの派・遠藤利克氏の作品と対照的
そういえば、2017年、埼玉県立近代美術館の企画展『遠藤利克展―聖性の考古学』に出かけたことを思い出した。「ポストもの派」の代表作家として、戸谷成雄氏と遠藤利克氏の名前は並べられることが多い
同じ展示スペースに並んだ両氏の個展を比較すると、まさに「黒」と「白」。対照的な趣だった。
埼玉県立近代美術館『戸谷成雄 彫刻』展
会 期 :2023年2月25日(土) ~ 5月14日(日)
休館日 :月曜日(5月1日は開館)
開館時間:10:00 ~ 17:30 (入場は17:00まで)
観覧料 :一般1200円、大高生960円、中学生以下無料
展覧会公式サイト
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