冬の朝、かたいインクの思い出
私の場合、「編集者になろう」と思ったことはありません。小学生の頃、すでに卒業文集の装幀をしてましたし、中学生の頃、学級日誌に毎日コラムを書いたりしてましたし、高校生の頃、放課後、学校の周りの喫茶店を取材してミニコミっぽいものを作ってました。
物心ついた頃にはすでに編集者でした。「編集者になりたい」というより「本を作りたい」という想いが強烈でした。
で、大学生になって印刷工場でアルバイトをするようになりました。大阪、四天王寺近くの住宅を改造したような小さな町工場。インクのにおいがプンプン漂う現場感覚あふれる場所。1年くらい働きました。
朝、出社して最初にやる仕事が、エプロンをつけてスミ(黒色)のインクを練ること。インクは八の字を描くように、金属製のパテで柔らかくなるまで練っていくのですが、冬の朝はとてもかたくて、力を入れてこねてもなかなか柔らかくなりません。そこで、練る前に少しだけニスのような油をまぜるのですが、本当に寒い朝はそれでも柔らかくならないのです。一度、多めにニスを入れて手抜きをしたら、おっちゃんにえらく注意されたことを覚えています。
一冬、毎日インクを両手で力一杯こねたことは、プロの編集者としての最初のキャリアでした。冬の寒い朝は、今でもかたいインクを思い出します。
ディスカッション
コメント一覧
ええ話ですねぇ。
おお、硬いインキ、わかるひとそっちのしまにいたとは。
(って僕自身インキ練ったことはないのですがね)
にしても印刷の職人さんはアーティストですわ。
蛍光色も白をベースに刷るか、その色主体にいくか。
彩度をあげるのも白でいくか、蛍光を練りこむか。
奥が深い。。