庄内旅行- 日本海の孤島、飛島の磯を歩いた

2023年4月15日

日本海に浮かぶ孤島、飛島の存在を知ったのは、確か高校生の頃だった。ユースホステルに宿泊する旅が好きだった私は、ガイドブックの中で一軒のユースホステルと飛島の簡単なプロフィールを知った。私が育った大阪からはあまりにも遠い離島。訪れたいなと思いを馳せながら、それから30年以上、飛島の存在を忘れていた。下が飛島の位置。

前日訪れた三崎の展望台から海上にうっすらと飛島の姿が見えたこと、夕食を食べた「さかた海鮮市場」の隣りに飛島への定期船乗り場があったこと、そして、定期船「とびしま」は一日一往復運行されていて日帰りも可能であることを知り、突発的に飛島行きを決めた。

行きは朝9時30分に酒田港を出港して10時45分に飛島の勝浦港に着く。帰りは昼13時30分に飛島を出港して14時45分に酒田港に着く。2時間半強の滞在だけど、まぁ、小さな島だしいいだろうと、朝9時に定期船乗り場に到着。

待合室は遠くからの観光客はあまりおらず、地元・酒田のアウトドア団体っぽい人でいっぱいだった。ちなみにこの日は往復1便だが、最大3便が運行されることもあるらしい。もちろん天候の状況によっては運休もある。

船は1階が客室、2階がデッキとなっている。船は前方の方が酔いやすいと聞いていたので、真中よりもちょっと後方の座席に座ったが、港から外海に出ると大いに揺れ始め気分が悪くなり、逃げるように2階のデッキに出た。新鮮な空気が吸えることと、遠くの風景を眺められるのでちょっとはましになった。しかし、この程度の波で酔ってしまうとは。冬の船旅が思いやられる。

定刻通り1時間15分で飛島の勝浦に到着。「ひなびた」という形容詞がふさわしい小さな港だ。

港でもらった観光パンフレットには、ウォーキングコースとして「歴史と風景をたどる(所要150分)」「巨木の森を廻る(所要40分)」「渚の鐘と展望を楽しむ(所要60分)」等、5つが紹介されている。勝浦を出発し勝浦に帰る「飛島の自然と季節の花を楽しむ(所要150分)」を歩いてみることにした。ゴトロ浜、オバフトコロ浜という場所があり、「道はありませんが浜は通行可能です」と書かれている。何だかワイルドな感じが気に入った。

勝浦をスタートして、まず館岩というところに登った。登道から勝浦の全景が眺められた。小さな島の小さな港だ。

館岩はウミネコの繁殖地だが、季節外れのためウミネコの姿は見られなかった。私は館岩よりも隣に見える百合島に目を奪われた。岩肌が露わな絶壁の島で、ある映画を思い出させた。横溝正史原作、市川崑監督の『獄門島』だ!

獄門島のストーリーを思い出しつつ、島を時計回りに磯に沿って北側に向かう。10分ほど歩くと道が海の中に消えてしまっていた。満ち潮が原因だろうか。引き返すことも考えたが、パンフレットには「道はありませんが浜は通行可能です」と確かに書かれてある。

思い直して道から外れ磯沿いを歩いていくと、これまた鳥肌が立つような光景が。賽の河原だ。こんなところになぜ……。

賽の河原を抜けて、再び磯沿いを歩くと今度は石造りの小さな神社があった。「明神の社」とパンフレットには書かれている。境内は石積みの壁で囲われていて、鳥居から本殿を見ることができない。山に海が迫った狭い地に建てられたのが理由と思われるが、鳥居から本殿が見えない神社というのはちょっとコワい。恐る恐る鳥居をくぐると、雑草に覆われた本殿が見えた。

賽の河原も明神の社も、そのいわれについてはパンフレットに書かれていない。やはり『獄門島』ぽい島だ。

明神の社からは、延々と2キロほど「オバフトコロの浜」という磯の浜が続く。珍しい青い石と名前が分からない紫の花に少し心が落ち着いた。

ただ、いかんせん天気が悪い。雨は降りそうにないが、日本海は鉛色で風景は荒涼として、8月なのに風は冷たい。そして磯の所々にゴミの漂流物が。

私は、これまでいろんな世界のアイランドビーチを見てきたが、言葉は悪いが“アジア最凶のビーチ”という風情である。ただ、“どうしようもない最果て感”は味わえる。下はiPhoneのパノラマ機能で撮影した写真。

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オバフトコロの浜を抜けて、荒崎という岬に到達。ここは「日本の渚百選」の一つに選定されている。だが、ここも天気がよくて、スカシユリのシーズンならば印象が違うのだろうが、“どうしようもない最果て感”漂う風景だった。

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帰りの船の出航時間が気になるので、荒崎からは山越えで島の南へ。飛島の最高地点は標高68メートル。一気に山道を登り峰に向かった。海岸線と違って夏の緑いっぱいの山道だった。

その後一気に山を下ると、勝浦の集落が見えた。小さな島だが北側と南側ではまったく風景が異なる。出港20分前に港に到着。

たった数時間の滞在だったが、“どうしようもない最果て感”が心に残る島だった。

帰りの船もデッキに陣取った。行きよりも揺れが少なくて快適だった。だんだんと離れ行く飛島。この風景もどこかで見たような気が。

横溝正史原作、篠田正浩監督の映画『悪霊島』だ。思わず「レット・イット・ビー」を口ずさんでしまった。

鵺(ぬえ)の鳴く夜は恐ろしい……。


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