感想/吉本ばなな著『スウィート・ヒアアフター』

吉本ばななの小説は、昨年秋に読んだ『ハードボイルド/ハードラック』以来。本書は 2011年刊行なので、私が読んだ中では一番最近の作品となる。彼女の作品には、しばしば死者、幽霊、臨死体験が描かれている。内容はかなりオカルトなのに、彼女ならではフィルターに濾過されて、透明感あるストーリーとなる。

この作品も交通事故に遭い、鉄の棒が自身のお腹に突き刺さるというエグいシーンから始まる。自分の身に起きたことを想像すると、かなり悲痛な光景だ。ところが、臨死体験で亡き祖父との再会は、懐かしさと透明感が漂う風景として描かれている。リアルな痛みは、「参考まで」書き添えられているだけだ。

痛みとは相対的なものなのだろうか。「死んだ恋人の子供を妊娠したい」という切実な想い、それが叶わなかった痛みは、交通事故による肉体的な苦痛よりも、つらく読者の心を刺す。

あと、京都が舞台で、貴船、蔵馬といった北山ののどかな情景が、作品に淡い彩りを与えている。北山の空気感を知る人には、より楽しめる小説だろう。


スウィート・ヒアアフター (幻冬舎文庫)
著者/吉本ばなな  発行/幻冬舎

お腹に棒がささった状態から生還した小夜子は、幽霊が見えるようになってしまった。バーに行ったら、カウンターの端に髪の長い女の人がいる。取り壊し寸前のアパートの前を通ると、二階の角部屋でにこにこしている細く小さい女の子がいる。喪った恋人。元通りにならない頭と体。戻ってこない自分の魂。それでも、小夜子は生き続ける。