感想/『代表的日本人』内村鑑三著、鈴木範久訳
1894年、今から約120年前に発行。岡倉天心『茶の本』と新渡戸稲造『武士道』、この『代表的日本人』は、明治時代に英文で書かれ、日本文化を欧米に紹介した先駆けだ。遅まきながら、『代表的日本人』を手に取った。
日本人が英語で書いて、日本語が翻訳した書物を読んだのは、おそらく初めて。読んだのは1995年発行、近代日本キリスト教研究家・鈴木範久に翻訳による岩波文庫。中学生でもさらりと読めるほど平易な文章だ。これは翻訳家の力だろう。
西郷隆盛・上杉鷹山・二宮尊徳・中江藤樹・日蓮の5人を代表的日本人として、「偉人伝記」的に生涯を描いている。小学生の頃、学校の図書室に読んだ「偉人伝記」は、子供向けに美しく彩色が施されており、大人になると素直には受け取れないもの。
5人の人物紹介の元資料は、「当時容易に入手でき、しかも通俗的で、少年読み物の類まであることである。今日の目から見れば学問的には評価の低い資料が多いが、それは時代の制約からみても致し方がないであろう」と解説に書かれていた。
それでも、21世紀になってなお、しばしばビジネス雑誌で紹介される西郷隆盛・上杉鷹山・二宮尊徳・中江藤樹・日蓮。彼らについては、私自身、人物の概略もちゃんと語ることができない。生涯と人物像のエッセンスを知るにはよい一冊といえる。
また、5人の人物を通して語られる「道徳」は、薄らいだとはいえ、今なお厳然として心の中に残っている。一読すると、内村鑑三の視点を通じて、近代の日本人がどうありたかったか?という道徳観を垣間見ることができる。
私が一番興味深かったのは、西郷隆盛と日蓮のページにおいて、近代日本が西へ大陸を目指した動機、論理の一端が表れている点。司馬遼太郎の『坂の上の雲』に描かれた正岡子規にしろ、内村鑑三にしろ、「半島から大陸へ」という目線は、日清戦争当時、「くもりのない正義」として捉えられていたのだ、と(内村自身は、日露戦争後、現実をもとに「小国主義」を打ち出す)。
私自身、キリスト教徒ではないため、同じ価値観の中にナショナリズムとピューリタリズムが収まる点については、今ひとつ腹に落ちなかった。
この本については下の書評が面白かった。
『茶の本』『武士道』も読まなければ。