岩手旅行- 花巻、宮沢賢治の「イギリス海岸」を散歩

2023年4月15日

宮沢賢治の作品は中学生の頃から、何冊も読んだ。その中で、タイトルに惹かれて手に取ったのが『イギリス海岸』。きっと同じような人が多いのでは? 『イギリス海岸』は学校の教師である賢治が、生徒を連れて北上川の河岸に出かけたエピソードを語るエッセイ。

イギリス海岸(青空文庫)

なぜ、河岸なのに海岸と呼ぶのか? 『イギリス海岸』にはこう書かれている。

 日が強く照るときは岩は乾いてまっ白に見え、たて横に走ったひゞ割れもあり、大きな帽子を冠かむってその上をうつむいて歩くなら、影法師は黒く落ちましたし、全くもうイギリスあたりの白堊はくあの海岸を歩いてゐるやうな気がするのでした。
 町の小学校でも石の巻の近くの海岸に十五日も生徒を連れて行きましたし、隣りの女学校でも臨海学校をはじめてゐました。
 けれども私たちの学校ではそれはできなかったのです。ですから、生れるから北上の河谷の上流の方にばかり居た私たちにとっては、どうしてもその白い泥岩層をイギリス海岸と呼びたかったのです。

内陸にある学校で臨海学校に行けなかったけれど、「海岸」と呼んでしまおうと考えるあたりが、なんとも微笑ましい。

雨の中、花巻城址を後にしてイギリス海岸へ徒歩で向かった。花巻城址の周辺は城下町の佇まいが残っているが、西へ向かうと県道298号線にぶつかる。ここは日本全国どこにでもある地方の幹線で、カーディーラー、ファミリーレストランが連なり、大型トラックが行き交い、イーハトーブのイメージからはなんとも程遠い。

県道を渡って北上川の河岸方面に向かうと、岩手県交通の「イギリス海岸」というバス停があった。すぐそばには「白鳥の停車場」も。ここもなんだか、無理に観光地をしたような感じで、心躍るものはなかった。

バス停と停車場を通過すると、北上川の河岸、イギリス海岸についた。あいにくの天気の上、川は増水しており、並々と灰色の水が滔々と流れている。

下のような「海岸」をイメージしていたのだが(写真:花巻観光協会のサイトより)

宮沢賢治が存命の頃と比べると、北上川の上流にダムが整備されたため、この流域の風景が大きく変化したようだ。防災が優先。いたしかたない。

ただ、瀬川と北上川の合流点には、地層があらわになった箇所があり、ここはなんとなくイギリス海岸の原風景である英国のドーバー海峡。白亜紀の地層を思いをはせることができた。

北上川沿いをイギリス海岸から南へ朝日橋まで歩いた。パノラマで撮影したのが下の写真。

『銀河鉄道の夜』の鉄道は、かつて北上川沿いを走る岩手軽便鉄道がモデルと言われており、北上川を銀河と見立て、その岸辺を鉄道が走る様子を描いたと宮沢賢治記念館では解説されていた。作中の「プリオシン海岸」もここいらとされている。

銀河鉄道に思いを馳せながら、小一時間ほど滞在した。


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