感想/浅田次郎『マンチュリアン・リポート』、張作霖の最期を描く
著者・浅田次郎氏は、本当に日本と中国が好きなんだなと実感。
彼が近代中国を描いた大河小説『蒼穹の昴』が出版されたのが1996年。 スピンオフ編の『珍妃の井戸』が1997年。 続編の『中原の虹』が2006年。『マンチュリアン・リポート』が2010年に出版されたスピンオフ編第2弾である。
小説『中原の虹』は、近代中国史において、蒋介石と毛沢東の陰に隠れた感のある奉天軍閥の巨頭・張作霖に、スポットライトを当てた快作。張作霖、彼が気になる存在になった中国好きは多いはず。私もすっかり白虎張(張作霖)の虜になってしまった。
彼が住んでいた瀋陽にある張氏帥府(写真上)は、10年ほど前に一度訪問したことがあるし、張作霖の爆殺現場であった京奉線と満鉄連長線の立体交差地点も、1989年に訪問した。そのため舞台がリアリティをもって脳裏に蘇った。
この小説では、密命を持った陸軍将校が、関東軍による爆殺の謎を追いかけ、報告書という形で物語が展開する。
ただ、本編(?)ではなくスピンオフ版で最期を遂げるのは、何とももったいない気がした。『中原の虹』の最後でさっそうと山海関を超えて中原に入っていた張作霖が、北京において苦闘し、敗北していった過程を、もっともっと読みたかった。ファンは同じ思いを持っているのでは?
それから、序章の昭和天皇との面会シーンの荘重さと、中国からのレポートのカジュアルな文体にあまりにギャップがありすぎた。上奏文ではないので、余計な修辞は必要ないとはいえ、リアリティーに欠けた。まぁ、狙ってのことなのだろうけど。
『中原の虹』の次作を期待している。北京に進出した後の張作霖はしっかりと描かれるのだろうか? そういえば、幼少の毛沢東もラストに出てきたっけ。
そろそろ完結してほしいな。 この物語、未完に終わると、私、死に切れない。
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