岩手旅行- 遠野の「千葉家・南部曲り家」、10年間の修理前に訪問

2023年4月15日

数百年が経過し今に残る史跡は、お金と時間さえあれば、いつでも訪れることができる気でいる。

ところが実際はそうでもない。20世紀、自由に旅ができたシリアやアフガニスタンの世界的な遺跡は、戦乱により、観光どころではなくなった。国内の史跡であっても、大規模な修理が始まると数年間、長ければ10年近く見ることができないこともある。

2015年夏に私が訪問した「千葉家住宅」も、2016年4月から10年間をかけて解体・修理が行われ、当分の間、見学することはできない。昨夏訪れて本当によかった。

さて、遠野滞在2日目。朝起きると、相変わらず雨が降りしきっていた。旅に出て以来、毎日雨。ついていない。旅館の客室から小さなロビーに降りると、白猫に憂鬱な顔でじっと見つめられた。この旅にふさわしい表情だ。

遠野は広い。見どころは盆地に点在している。遠野駅前の観光協会でレンタカーを1日半借りた。旅にでる前はレンタサイクルで回ろうと思っていたが、さすがに雨の中、自転車で走る気になれなかった。

しかし、たとえ晴れていてもレンタカーが正解だった。最初に訪れた千葉家住宅は、遠野駅から西へ約10キロ。最後に、かなり傾斜のある上り坂を走らなければいけなかった。とても中年には無理。

南部の曲家・千葉家住宅、遠野観光の中でも一番の見どころだ。

さて、軽自動車のレンタカーで20分ほど運転して、千葉家の曲り家についた。国道396号・遠野街道を西へ。20分強で千葉家住宅に到着。国道沿いにあるので、とても分かりやすかった。住宅は高台にあり、国道の沿いの駐車場にクルマを駐めて見上げると、なるほど壮観だ。私は、子供の頃に見た映画『八つ墓村』の舞台、田治見家の屋敷がフラッシュバックした。

曲家(まがりや)とは? 岩手県の公式サイト「岩手の文化情報大辞典」より、この地方の南部曲り家についての説明を引用する。

旧盛岡藩領、特に盛岡市周辺や遠野盆地を中心に多く見られる、母屋と馬屋が一体となったL字型の住宅。

一般的に東側が台所で、南側に馬屋が突出する。馬屋の屋根には破風があり(入母屋)、かまどや炉でたく煙をはそこから排出され、このため馬の背や屋根裏の乾し草を乾かすことができる。南部曲り家は、(1)寄せ棟が多い、(2)平入り(長方の家屋の長径の側に入口がある)である、(3)棟(屋根)は母屋より馬屋が一段と低い、(4)曲がりの部分は母屋より小さく、馬屋になっている、などの特徴がある。

その南部曲り家の「横綱」が、面積540平方メートルのこの屋敷だ。江戸時代の天保年間(1830-1844)、当時の豪農、千葉家当主の四代喜右衛門が、飢饉で困窮した人々の救済のため、約10年の歳月をかけて普請したと伝えられている。山の斜面に石垣で平地を造成し、ちょっとした山城にも見える。かつては、作男の15人を含めて25人の家族と馬20頭が、この屋敷に共同で生活していたこともあったと。

下が主屋の全体図(遠野市「重要文化財千葉家住宅保存活用基本構想」)より。

実際、主屋の全景を写真に収めようとしても、ノーマルのレンズだと、庭を石垣の斜面ギリギリまで引いて撮影できないほどの大きさだ。

下は主屋の中の炉端のある土間(左)と馬屋(右)。駕籠に豪農ぶりがうかがえる。

下は畳間。屋敷は間近で見ると、外も内も長い風月に耐えた傷みがうかがえたが、畳間は手入れが行き届き、凛とした空気が漂っていた。

なお、役所広司主演の映画『蜩ノ記』(ひぐらしのき)はここで撮影されたことをパネル展示で知った。

主屋の北東にある大工小屋から広場を眺めた風景。大工小屋には、往時のさまざまな大工道具、農具が展示されていた。

そして、主屋の西側の土蔵。こちらは明治時代に建てられたもの。

晴れた日に訪れると風情が違うのだろうが、この日は暗い雨空が屋敷に重厚な趣を与えていた。

解体・修理が終わった頃、再び訪問したい。だが、10年後といえば、私はすでに「初老」になっているのか。


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