東北歴史博物館で、東北から日本列島を眺める

2023年4月15日

大雨の中、多賀城跡の散歩を終え、JR国府多賀城駅の南側にある東北歴史博物館へ向かった。雨に濡れたジーンズが膝にまとわりついて、とても気持ちが悪かった。

博物館のエントランスをくぐると、土と泥の多賀城発掘現場とは別世界、吹き抜けの現代的な空間が広がる。なんだかほっとした。柔な現代人であることを実感。だが、しばらくすると、今度はエアコンを濡れたジーンズを冷やし、何やら体が凍えてきた。今回の東北旅行は本当に天候に恵まれなかった。

東北歴史博物館は宮城県立ではあるが、東北全体の歴史を幅広くカバー。旧石器時代から近・現代まで、9つの時代に分けて、さまざまな文物を解説・展示している。この日、特別展はなかったので、1時間半ほどかけて常設の総合展示室を見た。

本館・総合展示室

私が印象に残った展示は下の2つ。

  • 古代のエミシと多賀城での生活
  • 近世のムラ、藁の神々

私は関西に生まれ、首都圏に住んでいるので、どうしても列島中央部から日本を眺めがち。従って、無意識のうちに大和朝廷視点で東北を見てしまう。この歴史博物館では、古代の東北を、朝廷体制の外側にあったエミシ(蝦夷)の視点と、多賀城を拠点とする朝廷視点、半々に解説しているところがニュートラルだった。

エミシの人々からすると大和朝廷は侵略者だ。事実、朝廷は時に武力を用いて、東北に支配を拡大していった。私が子供の頃の歴史漫画では、ヤマトは文化水準が高い米作りの「国」で、エミシは狩猟中心の野蛮な「民」のように描かれていた。しかし、実際にはライフスタイルに大きな差があるわけでなく、強大な中央勢力と弱小の地方勢力の違いであったようだ。

多賀城を滅ぼした伊治呰麻呂(いじのこれはる)の乱を、逆賊と見ず、やむにやまれぬ大和朝廷政権への抵抗運動として描いるところが、東北の歴史博物館としての矜持を感じた。

多賀城の官吏

もう一つ、興味を持ったのが「藁の神々」。藁で作った神で知られるナマハゲは、秋田県男鹿半島特有の行事だと思い込んでいたが、同様の行事は東北各地にあることを知った。

古来、藁は、草履、帽子といった日用品の材料のほか、正月のしめ縄や人形等、信仰・宗教用具の素材として使われれてきた。ことに東北地方では、藁で大きな神像を作ったり、藁で作った衣装を着た行事が数多くあるらしい。そんな「藁の神々」の数々が展示されている。いずれも愉快な表情ばかり。ジブリのアニメーションのキャラクターのいくつかも、こんな「藁の神々」が着想を得たのだろうか?

最後に鮮烈な印象を受けた展示物を一つ。

生まれたばかりの赤子を、鬼となった母親が殺す絵だ。大飢饉の際に行われた「間引き」である。右上では地蔵菩薩が涙を流している。

柳田國男が民俗学を志したきっかけとして、茨城県の徳満寺にある「子返し絵馬(間引き絵馬)」を見たことを述懐している。

約二年間を過した利根川べりの生活を想起する時、私の印象に強く残っているいるのは、あの河畔に地蔵堂があり、誰が奉納したものか堂の正面右手に一枚の彩色された絵馬が掛けてあったことである。その図柄が、産褥の女が鉢巻を締めて生まれたばかりの嬰児を抑えつけているという悲惨なものであった。障子にその女の影絵が映り、それに角が生えている。その傍らに地蔵様が立って泣いているというその意味を、私は子ども心に理解し、寒いような心になったことを今も憶えている。

柳田國男『故郷七十年』

今回の旅では、遠野のデンデラ野やコンセイサマなど、北の地で生き抜くことの過酷さを、何度も見せつけられた。近代になっても、1930年代、昭和東北大飢饉があり、飢饉は身近な存在だった。極限の状態で、人はどう生きるのか?を知る意味でも、飢饉の歴史を知る必要があると感じた。

東北歴史博物館公式サイト


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東北旅行博物館,宮城

Posted by Asanao