本多勝一『極限の民族』三部作 – 私の旅心を刺激した7冊(その3)

旅行ライター・伊藤伸平さんからの「7日間ブックカバーチャレンジ」のバトン、「旅心」を刺激した本を中心に。3日目は『極限の民族』ルポタージュ三部作、『カナダ・エスキモー』『ニューギニア高地人』『アラビア遊牧民」です。

本多勝一氏の1980年代以降の著作は、「いかにも朝日新聞」的な立ち位置に違和感があるのですが、1960年代前半、約半世紀前のこの三部作はルポの金字塔だと思っています。読んだのは大学3年生くらいだったっけ。

私の親世代の日本人にとって、ニューギニア高地人=「土人」「人食い人種」という程度の認識(本の冒頭に書かれています)だったので、海外の辺境を旅する際の「見方」に強い影響を受けました。

三部作の中で、最も印象に残っているのは『カナダ・エスキモー』です。エスキモーの犬に対する厳しい姿勢に目を奪われました。

犬に対して彼らはきびしい。ソリ犬は、ただひたすらソリを引くことだけを要求される。(中略)ソリにどっかり腰をすえ、十数メートルのムチで十数秒に一回ずつ、片っ端から公平になぐっていく。このムチの痛さは、犬の耳などに当たると一発で鮮血がとぶのを見てもわかる。(中略)エスキモーは犬に対して徹底的にきびしい態度をとるから、犬は反抗しませんが、私たちのように甘い態度を示すと、たちまち反抗し、いうことをきかなくなります。(中略)命令は、芸をさせるためではなく、重いソリをひかせるためであります。犬のご機嫌をとり、かわいがって命令をきかせるにしては、エスキモー犬は野性的すぎます。

『カナダ・エスキモー』より「犬を甘やかしてはならぬ」

先進国に住む私たちが疑いを持たないヒューマニズムは、環境が変われば「悪」であることを、エスキモーの暮らしの過酷な事例で示されてショックでした。

そんな極限の民族の生活も半世紀で大きく変化したようです。今や(コロナ禍がなければ)北極・南極、果ては宇宙空間まで、地球上のあらゆる場所が観光地として開拓されつつあります。この本で描かれた、マス大観光時代以前の辺境の生活風景は失われてしまいました。

『カナダ・エスキモー』で本多勝一が居候した一家を、朝日新聞の記者が2009年、45年後に訪れた記事があります。

45年前に先輩たちが住み込んだ家の主人、カヤグナさんを訪ねた。昔の記事では、生肉や汚物の臭いが充満する「異臭の家」で暮らしていたというのだが、今では4LDKの一軒家に住んでいる。そしてドアを開けるとビックリ。写真や絵できれいに飾られた居間で、老人が立派なソファに座り、42型のテレビを見ているではないか。聞くと、カヤグナさんだという。

夢の再会-『カナダエスキモー』再訪(上)(下)

この『極限の民族』三部作は、今や「ルポの古典」となったのでしょう。

私の旅心を刺激した7冊