五木寛之『ソフィアの秋』 – 私の旅心を刺激した7冊(その7)
旅行ライター・伊藤伸平さんからの「7日間ブックカバーチャレンジ」のバトン、私の「旅心」を刺激した本の最終日。何にするか、迷いに迷って、五木寛之『ソフィアの秋』を。
「ソフィア」という都市名の響きに惹かれてこの本を手に取りました。「ソフィアの秋」、何やら旅心をくすぐるタイトルですよね。
初版は1969年。五木寛之氏初期の作品で、ソフィア(ブルガリア)、オスロ(ノルウェー)、ローマ(イタリア)、パリ(パリ)、ヨーロッパを舞台にした短編小説が4つ収められています。
いずれもデラシネ(根無し草)な主人公が、過去の昇華を求めてヨーロッパに出かけるほろ苦い物語で、今、読み直すと、青春と恋愛の通俗小説です。
ただ、当時の為替レートは1ドル=360円の固定相場。大半の庶民にとって海外旅行はぜいたくな夢で、ヨーロッパの街の風景にリアリティーがありませんでした。なので、発行当時、この作品の読者は、今よりもはるかにヨーロッパへの憧れを抱いたに違いありません。
また、今よりもはるかに、社会的な規範や同調圧力が強かった当時、一瞬でも心が遠くに羽ばたいていうような魅力があったはず。
五木寛之氏の小説は、中学時代、学校の先生に『青春の門』を強く勧められましたが、私は『ソフィアの秋』(に収められた『ヴァイキングの祭り』)『燃える秋』『四季・奈津子』と続く、女性の自立シリーズの方がが好きでした。
ラストで『燃える秋』の主人公はイランへ、『四季・奈津子』の主人公はボスポラス海峡へと旅立ち、読んだ後、「オレもいつかボスポラスへ行くぞ」と、自室の天井を見上げたのものでした。