岩手旅行- 遠野・デンデラ野で考えた「地方」の今昔
3日間滞在した遠野。最後は市内東北部の山崎のコンセイサマ、デンデラ野を散歩した。
山崎のコンセイサマは程洞稲荷神社のものよりも、ふた回りほど大きい。
遠野では、長らくその存在が語り継がれながら現物はなかったが、1970年代に砂防工事中に発見され、改めて祀られた。婦人の腰の病気に効くといわれている。
社に祀られたこのコンセイサマの他に、境内にはでっぷりとした巨大な石のコンセイサマ(写真左)や、男女の性器の形をした石もあった。
賽銭箱にも赤と青でコンセイサマがデザインされている。
現代に生きる我々には生々しさや露骨さを感じるが、かつてこの地に生きた人々にとって、想像を絶するほど子宝が切実なものだったのだろう。命への思いが凝縮されているような場所だった。
山崎のコンセイサマを後にして、山口の水車、民俗学者・佐々木喜善の生家を散歩し、最後にデンデラ野を訪れた。
デンデラ野はいわゆる姨捨山だ。60歳を過ぎた老人はこの地の小屋で共同生活をして「余生」を送った。ただ、里から山への「一方通行」ではなかったようだ。日中は農作をして、夕方になると帰ったらしい。また、現在、デンデラ野はこの地を指しているが、このような場所が遠野各地にあったようだ。
デンデラ野については、遠野物語と拾遺には下のように書かれている。
遠野物語 111
山口、飯豊、附馬牛の字荒川東禅寺および火渡、青笹の字中沢ならびに土淵村の字土淵に、ともにダンノハナという地名あり。その近傍にこれと相対して必ず蓮台野という地あり。昔は六十を超えたる老人はすべてこの蓮台野へ追い遣るの習ありき。老人はいたずらに死んで了うこともならぬ故に、日中は里へ下り農作して口を糊したり。そのために今も山口土淵辺にては朝に野らに出づるをハカダチといい、夕方野らより帰ることをハカアガリというといえり。遠野物語 拾遺 268
昔は老人が六十になると、デンデラ野に棄てられたものだという。青笹村のデンデラ野は、上郷村、青笹村の全体と、土淵村の似田貝、足洗川、石田、土淵等の部落の老人たちが追い放たれた処と伝えられ、方々の村のデンデラ野にも皆それぞれの範囲がきまっていたようである。(以下略)
Googleで「デンデラ野」を検索すると、心霊スポットとして紹介しているサイトが数多くヒットする。確かに寂寥感いっぱいの地ではなるが、私は霊的なものを感じることはなかった。それでも、昼夜二度訪れたカッパ淵とは違って、夜、訪れたいとは思わなかったが。
この辺り、山崎、山口の田んぼ道を1時間ばかり歩いた。ただ、すれ違う地元の人は老人ばかり。それもかなり高齢の方ばかりだ。60歳未満(と思われる)は旅行者ばかりだった。昔は還暦を境に里を離れ、今は還暦以上の人ばかりが里に残っている。そんな印象を持った。
下はデンデラ野から見下ろした遠野の田園風景。
命への切実な思いがあふれるコンセイサマ、命をつないでいくために仕方なく老人を追いやったデンデラ野、かつて東北に生きた人々の厳しさと激しさに思いを馳せつつ、遠野を後にした。
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